その人の出会いと、走りたい気持ち

散々第一回めの日記で
“その人”さんに出会ったから走りたい
と心底思えたと書いた。


その人さんとの出会いは
ただの入院生活で
ただの入院生活が終われば終わる。

まぁいわゆる看護師さんだが
その人さんが看護師として素晴らしい人だったわけではないと思っているので
私にとって、その人さんはその人さんでしかない。

たくさん入院生活を繰り返してきたため
思い出に残る看護師さんはいる。
その人さんも思い出に残っていくひとりだが、
今までの人とは違い、
本当に何か特別なエピソードなんてない。

その人さんが弱っていた私を支えようと努力してくれたことは間違えない事実だが
そこに大それた特別なことは本当に起きてない。
記憶に残る特別な行動も、
記憶に残る心に響く名言のようなものもない。

さらに言うなら
他の看護師さんの顔は今でもまだ流石に覚えているほど退院直後なのに
その人さんにいたってははっきりと顔を思い出すことももうできない。

でもそこでやっと気付いたことといえば
その人さんはそんなほんの1ヶ月程の関係で
きっと話はいちばん聞いてくれて
だからいちばん部屋にいてくれたのに
私は顔をはっきりと覚えていないのだ。

つまりそんなに近くにいたのに
私はその人さんに警戒心がなかった。
他人に期待も信頼もほとんどしない私だが
そんなにむやみに自身の領域に入ってきたその人さんに
なんの警戒心も持たず
よく泣いているところも怒っているところも見せた。

ふと出てくるその人さんが
自分にとってどれだけ偉大か
まだ自分にもよくわからないし。

でも退院したたった数日間の中で
きっと今この状況をその人さんがいれば私は
“困っている”と思えたな、とか
“聞いてや”と言っただろうなとか思うことがあった。
でもその人さんとの関係が終わった今、
それを思ったり言うこともなかった。

特別な返答が返ってくるわけでもない
的確なアドバイスもくれない
その人さん。

さて今日も、走るために何かをしようと思う。
その人さんへ、いつか届くと良い。

「私、あんたに冗談みたいに言ってたけど
ほんまに走るって決めたわ。」

と。